装飾という言葉に立ち止まる
今回は「装飾」について、少し立ち止まって考えてみたいと思います。
建築やインテリアの設計に関わるなかで、私は日々「装飾」に触れています。
デザインの模様を選ぶとき。花や動物といったモチーフを扱うとき。彫刻的な要素を部屋の一角に取り入れるとき。
――それらは装飾であると言って良いでしょう。
ただ、「装飾とは何か?」と改めて問うと、言葉の意味は広く、形を決める軸が曖昧に感じられる瞬間があります。
ここで一度、装飾についての考え方を整えておきたいと思います。
装飾の“根拠”を求めて
何かをデザインすると決めた時、選べる形は無限にあります。
その中から「これだ」と思うものを、どうやって決めているのか。感覚だけに頼らず、“根拠”を持って選べているのか――。
広辞苑では装飾を「美しくよそおいかざること。また、そのかざり、よそおい。かざりつけ。」と記します。
美しさを目的とした行為や結果を指す言葉です。しかし、設計に使えるツールとして理解するには、まだ距離があります。
そもそも、「装飾」と「デザイン」とは何が違うのでしょうか。
「装飾」と「デザイン」は何が違うのか?
どちらも“美しさ”に関わりますが、ニュアンスは異なります。
この違いを自分なりに言語化するうえで、山崎正和『装飾とデザイン』が大きな手がかりになりました。
同書では、造形を生む二つの意志として「デザイン」と「装飾」を対置します。
以下は、そこで提示される対照(および私の理解を加えた整理)です。

『装飾とデザイン』を読んで、考えを整理する
この本の中で語られる核心のひとつが、こちらです。
「造形は対立する二つの意志の産物」
「すなわち『デザイン』と『装飾』」
著者は、装飾とデザインを二項対立として提示し、以下のような対照を挙げています。
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デザイン/装飾
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普遍への志向/個物への固執
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秩序/逸脱
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簡素/過剰
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単純化/誇張
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全体による統一/部分の一斉蜂起
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抽象/感情移入
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類型性/個性
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線的/絵画的
極端な例で言えば、サヴォア邸が前者の象徴、サグラダ・ファミリアが後者の象徴として引かれます(あくまで理解の便宜上の図式です)。
ここで重要なのは、どちらが「正しい」ではないこと。
実務では一つの計画が両者のあいだを往復し、その割合のバランスをとった上で、特定の場所に装飾の“効き”を立ち上げることが多いのです。
境界は固定ではなく、可動である
装飾とは何か。デザインと何が違うのか。
明快な境界線があると捉えるのではなく、人間の創作行為はこの両者を行き来するものです。
デザイン寄りのつくり方もあれば、装飾寄りのつくり方もあります。
対比を受け止め、意識化することで、目の前の「形」への向き合い方は確かに変わります。
対立を往復しながら最適点を探る――その往復運動こそが、形に根拠と自由を与えてくれるのだと思います。