日本の風呂文化に学ぶ、これからの浴室設計


浴室の歴史に学ぶ、これからの空間設計

 

日本における「浴室」は、ただ体を清めるだけの場ではなく、時代ごとの思想や文化を映し出す空間でもあった。
自然との共生、信仰、社交、衛生、個人の癒し——。その移り変わりを見つめることで、現代にふさわしい浴室設計のヒントが浮かび上がってくる。

ここではその歴史をたどりながら、現代の暮らしと浴室空間のあり方をあらためて考えてみたい。

 

 

 

自然の中の入浴(初期)

入浴の起源は、温泉や洞窟といった自然環境の中での体験にある。
人々は湧き出る温泉や地熱の蒸気を利用し、自然の力に身を委ねていた。

キーワード:自然
→ 現代においても「自然に包まれるような設え」や「素材感・光・風」を活かす設計が求められる。

 

仏教とともに広がる入浴文化(6世紀)

仏教の伝来とともに、入浴は身体と心を清める修行としての意味を持つようになる。
「七病を除き、七福を得る」という教えに象徴されるように、健康と福徳の空間としての浴室が始まる。

キーワード:健康・福
→ 現代でも“整う”体験やサウナ文化への関心が高まり、身体との対話を促す空間づくりが重視される。

 

公共性と施浴(奈良時代)

寺院に「浴堂」が設けられ、僧侶の修行の一部としての入浴が行われた。
同時に、寺院による**「施浴」=庶民に開かれた入浴体験**も広まり、公共性を持つ空間へと広がっていく。

キーワード:施浴・清める
→ ユニバーサルデザインや地域交流の場としての浴室。誰にとっても開かれた設計の重要性が見えてくる。

 

もてなしの場へ(鎌倉〜室町)

入浴が人を招き、もてなす行為へと発展する。
“風呂ふるまい”では、湯と食事を振る舞い、親しい関係を深める時間が共有された。

キーワード:ふるまい・社交
→ 家族や友人とともに過ごす浴室、あるいは旅館や別荘での共有性のある空間の設計にも通じる。

 

銭湯の登場(江戸時代)

都市の生活に根ざした共同浴場=銭湯が誕生する。
蒸し風呂形式で、密閉された空間はまさに社交と憩いの場として人々の交流を生み出した。

キーワード:社交・憩い
→ コミュニティにひらかれた浴場空間や、シェア型の施設設計に通じる要素が多い。

 

家庭への普及と個人化(慶長〜)

「据え風呂」が登場し、入浴が家庭で行われる日常の行為へと変化する。
「五右衛門風呂」や「鉄砲風呂」は、個人で静かに湯に浸かる文化を育てた。

キーワード:一人利用
→ 一人ひとりが快適に過ごせる「パーソナルな浴室空間」が現代設計にも求められている。

 

近代化と衛生(明治〜大正)

明治期には「改良風呂」が広まり、浴槽や洗い場の広さ、開放感が重視された。
大正期にはタイル貼りや水道の普及により、衛生的で機能的な空間へと進化する。

キーワード:清潔感・開放性・衛生
→ 現代の設計でも、換気・湿度管理・清掃性などに配慮したマテリアル選定が重要。

 

現代の浴室が持つ多様性

現代の浴室は、技術の進化とともに多様なニーズやライフスタイルに応える空間となっている。

  • 温度調整や自動給湯などの高度な機能性

  • 照明やジャグジーによる演出性・非日常感

  • スーパー銭湯やスパ施設にみられる複合的なサービス性

  • 高齢者や子どもへのバリアフリー対応

  • 在宅時間の増加に伴う、「癒しの空間」としての再評価

 

 

 

空間としての浴室を、どう設計するか

 

こうして歴史をたどってみると、浴室はいつの時代も**「人の身体と暮らしの接点」**であり続けてきたことがわかる。

私たち設計者にとっての浴室は、単なる機能空間ではない。
日々の疲れをほどき、静かに自分自身と向き合うための場所。
そして、時に人と人との関係を深め、豊かな時間を育む小さな建築空間でもある。

これからの浴室は、個人的でありながら社会的でもある。
そんな複層的な価値を持った空間として、丁寧に設計していきたい。

 

 

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