「松」 主室





浴室



「もみじ」 主室




浴室


「うめ」 主室






月見台


ディティール




外観



京都貴船
料理旅館ひろ文
京都貴船にある料理旅館、ひろ文の改修計画である。当旅館のある貴船地域は京都市の北方に位置し、細長い峡谷に旅館が立ち並ぶエリアである。敷地周辺を歩くと、貴船川から涼しげな川音が聞こえ、多くの人々が京の夏名所である川床料理を楽しんでいる。水の神様を祀る貴船神社からは神秘的な雰囲気がたち込めており、古くから山水と親密な地域であることがわかる。このような貴船の自然の魅力を取り込み、凛とした佇まいを大切に設計することを考えた。もう一つ重要であったのは、和のデザインについてである。貴船地域の資料を調査すると「昔風のひなびた雰囲気を守っていかねば」との記載があった。そして、施主との打合せの中でも「田舎に帰ってきたような〜」というキーワードが出てきた。ここでは流行を追うようなデザインは必要でなく、『陰翳礼讃』にあるような和の調和を築くことが大切だと考えた。山水との関係性を築きながら、温かい和の情景を取り入れた設計を行った。改修は既存建物の一画を3つの宿泊室にする計画である。山水の魅力を引き出すべく、まずは浴室について考えた。お湯は山水を引き込んで利用し、浴室は外部に面してフルオープンの大開口を設け、川音と山の景色と一体となって入浴できる空間とした。浴室を縁側のような内外の中間領域と捉えることで、涼しい夏から雪景色の冬といった四季に応じて外部環境と心地よく繋がれる。浴槽にはこの地域の山から産出される鞍馬石を使用し、浴槽の脇には貴船川の川石や竹で構成した坪庭を設けた。熱いお湯に浸かり、時に火照った身体を冷ませれるように、坪庭には竹の吐水口を設けて冷たい山水が流れるつくりとしている。客室については庭と一体となった和室を中心に計画し、各部屋をつなぐ要所に先代から受け継がれてきた欄間等のエレメントを取り入れている。寝室はほのかに回り込む光を意図し、庭―和室障子―和室―寝室障子―寝室という2重の障子としたことで、とても柔らかな朝日とともに起床できる空間となった。鞍馬山の大杉や竹、紅葉の葉といった地域の素材をディティールに用いて、貴船と共にこれからの経年変化を楽しめる工夫を凝らしている。この地の素材によって温かい和の情景をつくり、プロポーションと光によって凛とした佇まいをつくる。現代において変わりゆくものは多いが、ここでは貴船に宿る昔ながらの変わらない魅力に接続した建築を目指した。
設計:CORRED DESIGN OFFICE / 北村拓也
共同設計:hub architects / 西村里美
設計・施工:石山テクノ建設株式会社
所在地:京都府
主要用途:旅館
構造:木造(在来軸組工法)
規模:3客室の改修
竣工:2022年
写真:髙橋菜生