店内にもうひとつの市場をつくる
徳山商店
大阪生野コリアタウン
大阪の生野コリアタウンにある韓国食品店「徳山商店」の改修計画である。
生野コリアタウンは韓国の食や文化の店舗がずらりと並び、まるで本場韓国に来たような場所である。ストリートに人やモノがひしめいてエネルギーに満ちている。改修計画は、このストリートが持つ雑多な魅力を店内まで引き込むことがコンセプトである。敷地を最初に訪れたとき、バンコクの露店での食事体験が頭をよぎった。バンコクでは路上にイスとテーブルを並べてそのまま路上で食べる。都市とダイレクトに繋がる特別な体験、リアルタイムで変化するストリートでの食事は楽しかった。このような都市の活力をそのまま店舗内に持ち込む。
通りを歩く人と店舗の交流が生まれるように、メインストリートに沿って小さな屋台をたくさん並べた。大きな建築ではなく、かわいいスケールの屋台によって市場らしい雑多な魅力をつくる。屋台は木箱、野菜入れ、波板、といった日常的な素材をアレンジしてつくり、色や形を変えながらストリートの風景と断片的に連続する。屋台は路地側へも展開し、焼き台と折りたたみカウンターを備えた。ここでは大阪の風を感じながら、少し落ち着いた路地裏で焼きたてのチジミを食べられる。
屋台を内部までリング状に繋げて、店内に回遊性のあるもうひとつの市場をつくった。結果、店舗の奥の方まで活気が行き渡っている。既存建物は韓国寺院をモチーフにしており、極彩色の庇や伝統模様が装飾されていた。改修によって全部を無くすのではなく、既存の特徴を活かしつつ、新しさを重ねて賑わいを増幅させるデザインとした。バンコクでみた露店の魅力は、過剰とも言える重なりにある。過剰な庇、看板の応酬、無数の台、ストリートに秘められた楽しい要素をより拡張することで、都市と人がもっとフレンドリーな関係を築くことを目指した。
設計:CORRED DESIGN OFFICE / 北村拓也
施工:美和技研
所在地:大阪府
主要用途:店舗
構造:既存改修
規模:90㎡
竣工:2022年
写真:髙橋菜生