たとえば、何もない無人島で火を起こす場面を想像してほしい。
その火は、暖をとり、料理をし、夜の闇を照らし、獣から身を守る——
つまり、きわめて「物理的な拠所」となる。
シェルターや炊事場、照明としての機能を、ひとつの火が担っている。
けれど、それだけでは終わらない。
やがて、その火のまわりには人が集まり、言葉を交わし、笑い合い、
ふとした瞬間に、安心を感じるようになる。
そこには、自然と「精神的な拠点」が立ち上がっていく。
どこにも属さず、ただ漂っていたような私が、
建築という行為を通して、この地に“定着”する。
そのとき、自分と世界が結ばれたような、静かな感触が生まれる。
この瞬間が、建築の始まりのひとつだと思う。
そこに、人々の願いや想いのようなものが宿って、
かたちが生まれ、空間が息をし始める。
ときどき、素晴らしい建築に立つと、
つくった人たちの声のようなものを感じることがある。
それには、きっと理由があるのだと思う。
ただの“場所”を超えた何か。