テープが変えた風景


日常の見方を少し変えるだけで、世界は思いがけず違って見えることがある。ほんのわずかな仕掛けで人の視点をずらすこと。それは、デザインの本質のひとつではないかと感じている。最小限の操作によって、空間の印象や意味を大きく変えていくという考え方だ。

写真は、とある地下鉄の壁に貼られていた一本のガムテープである。おそらく改修工事に向けて、下地の位置を仮に示したものだろう。一時的なものにすぎないはずだが、そのテープによって、その場の風景は驚くほど違って見えた。これまで通り過ぎていた壁が急に目に入り、タイルの素材感や目地の幾何学、看板の配置といった、普段は意識しない要素が立ち上がってくる。その瞬間、何気ない空間が、どこかアートのようにも感じられた。アートが、日常を別の視点で切り取る行為であるとすれば、このテープは「最小限の介入によって日常を再発見させる装置」だったのかもしれない。

以前、駅構内の空間設計コンペに参加した際、私たちはサイン計画に着目した。床の矢印や色分けによる安全表示など、駅では当たり前に存在する情報のあり方を改めて見直し、床材の色や質感の変化といった要点に絞った引き算の提案を行った。今回出会ったテープの風景には、そのときのサイン計画と通じる感覚がある。何かを大きく足すのではなく、小さな変化の兆しをそっと与えることで、空間全体の意味が静かに更新されていく。

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