
「極大化」からはじまる建築の発想
「極大化する」というデザインの方法があります。
ふだん何気なく見ているもののスケールを、極端に大きくして考えてみる。
そうすることで、当たり前に思っていたものの本質が浮かび上がってくる——そんな思考法です。
たとえば、イス。
一般的には、横幅40cmほどの大きさです。
ではこのイスが、3m、10m、100mと長くなっていったら、どうなるでしょうか?
イスを極大化すると、風景が変わる
3mあれば、もはや「ベンチ」と呼んだ方がしっくりきます。
ここで私たちは、イスとベンチという“呼び名の違い”に気づくわけです。
10mになれば、20人が座れるような大きさ。
商店街の通りに置けばストリートファニチャーに、公園に置けば子どもたちの遊具にもなりそうです。
イスとして「座る」以外の新しい使い方の可能性が見えてきます。
100mともなれば、もはや都市のインフラのような存在。
端と端は見えないけれど、「同じイスに座っている」という感覚を共有できる。
そこには、見えないつながりや想像力が生まれてくるかもしれません。
地域の風景から着想した「極大化するイス」
上の写真は、私たちが設計したある住宅です。
この住宅では、「イスを極大化する」という発想をもとに、空間を構成しています。
着想のきっかけは、地域に今も残る原風景。
人々が畑の畝(うね)に腰掛け、横並びで会話する風景が、この地域にはあります。
畝とは、畑にできたほんの少しの高低差。
それだけで、人が自然と腰を下ろし、一緒に時間を過ごす“居場所”が生まれている。
この土地の魅力を建築に取り込むことはできないか。
そう考えたとき、「極大化されたイス」と「畝の風景」が重なって見えてきました。
どちらも、人を定着させ、境界をつくり、一体感を生む。
だからこの住宅では、畝のような地形をイスのように扱い、人が集い、育ち、守られる空間を目指しました。
極大化は、想像を自由にする
「極大化」という考え方は、既成概念を軽やかに超えるきっかけになります。
イスの次は、テーブルを極大化したら?
ベッドを極大化したらどうなるか?
——そんなふうに、発想は次々と広がっていきます。
たとえば、床じゅうが柔らかくて、どこでも寝転がれるような部屋。
そんな空間を「心地いい」と思う人がいるかもしれません。
少し奇妙だけど、だからこそ魅力的な空間。
建築はもっと、フレンドリーで、自由で、楽しいものであっていい。
そんな想像力の扉を、極大化の思考はそっと開いてくれるのです。