
重なりから生まれる魅力|都市の風景と建築のヒント
都市は、インフラ・建物・生活用品といった多様な人工物が幾層にも重なってできています。
それぞれの要素は人が設計し、意図をもってかたちづくられたものです。
けれど、それらが一つの空間の中で交差し、重なり合ったとき、誰も予期しなかった出来事や魅力が立ち上がってくる。
重なりによって、予定調和が崩れ、思いがけないふるまいや風景が生まれる——
そんな都市のあり方は、そのまま建築設計のヒントにもなりうると感じています。
高架と店舗が重なる風景
写真は、高架の構造体に、店舗が寄り添うように建っている風景です。
都市スケールのインフラである高架と、人の営みが集まる建物スケールの店舗。
両者が重なり合うことで、スケールの異なる存在が共存しています。
高架下の道路にも面白さがあります。
一見すると高架が道路を覆っているように見えますが、反対に道路が空間を切り取って貫通しているようにも感じられる。
両者の関係は、どちらが主でも従でもなく、対等なバランスに見えます。
また、目を引いたのは、高架からはね出して設置された鉄のデッキ。
このデッキは高架がなければ成立しない、いわば“弱い存在”ですが、
高架から逸脱するように伸びていることで、独自の領域を持った空間としても機能している。
こうした“重なりの多様性”が、都市の面白さのひとつです。
複数のルールが並走する空間
都市には、変わるものと変わらないもの、大小のスケール、
人のための場所と、車・鉄道のための場所など、異なる性質のものが入り混じっています。
それぞれが異なる理由で成り立っているにもかかわらず、同じ空間に“共存”している。
その重なり合いの中に、都市らしい魅力があるのだと思います。
このような状況を、建築に応用できないでしょうか。
つまり、都市のように、「複数のルールが並走する」建築のつくり方です。
空間同士が重なり合うことで、機能のギャップやふるまいのズレが生まれ、
それが新しい体験や使われ方を導いてくれるかもしれません。
重なりの多様性
すべてが整然と設計された空間ではなく、
あえて「重なる」ことを受け入れた設計。
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異なるスケールが共存すること
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自律したルールがぶつかり合うこと
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予定外のふるまいが生まれること
それは、単に複雑さを求めるのではなく、
多様な価値観が共存する時代にふさわしい空間のあり方を模索することでもあります。
都市の中にあふれる、重なりの風景。
そこには、私たちがこれからの建築を考えるための、豊かなヒントが潜んでいるように思います。