
大阪の街でふと出会った、工場と集合住宅が並ぶ風景。
その対比的な姿が目に留まり、しばらく立ち止まって眺めてしまいました。特に印象的だったのは、工場の不思議なかたちです。
モダニズムの建築において、ある意味で集合住宅は「均質空間」の象徴のような存在です。
一方で、この工場は人工的であるのに「不均質な空間」として、自由な増殖や複雑さを内包しています。
両者を読み解くことで、これからの建築にとってヒントとなるような視点が得られるのではないかと感じました。
工場と集合住宅に共通する機能主義
工場も集合住宅も、根底には機能主義的思想があります。
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工場はまさに「機械のような建築」。製造や加工のために必要な機能をそのままかたちに反映しています。
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集合住宅は住宅の大量供給を目的とし、効率よく床面積を確保するために計画された構成です。
どちらにも機能美があり、合理性がかたちを生んでいる点は共通しています。
均質と不均質のちがい
ただし、両者には明確な違いもあります。
集合住宅
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均質な空間の繰り返し
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全体のかたちが先にあり、それを分割するように単位を配置
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輪郭は整然としており、構成が明快
工場
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各工程に特化した部分が、周辺環境に応じて“つながっていく”
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部分の集合体のようで、統一的なルールが見えにくい
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工程や地形の影響を受けながら構成が決まる
工場は人工的ですが、まるで「生き物のような建築」に見えました。
自然に応答し、時に増殖しながら、必要な機能を柔軟に取り込んでいく。そこには意図しえない魅力があります。
「重合のシステム」という考え方
工場のように、部分がつながって全体をつくっていく建築を、「重合のシステム」と呼んでみたいと思います。
重合(polymerization)は化学の用語で、分子同士が結合し、より大きな構造をつくるプロセス。
この考え方を建築に応用してみると、こんな特徴が見えてきます:
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各部分が特化した役割を持ち、自律しながらつながっていく
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環境や状況に応答しやすく、変化や拡張にも柔軟に対応できる
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部分と部分のあいだには余白が生まれ、自然や人の介在を許容する
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全体を先に決めるのではなく、部分の関係性が全体をかたちづくる
このような建築は、多様性を包み込む空間のつくり方として、新しい可能性を秘めているのではないでしょうか。
これからの空間を考えるために
「均質な空間」の美しさや効率性は、これまで多くの建築を支えてきました。
けれど今、より複雑な価値観や生活スタイルが求められる時代において、多様な部分が共存しあう“重合的”な空間にも目を向けるべきかもしれません。
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整然とした輪郭ではなく、曖昧で変化に富むかたち
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単位の反復ではなく、相互補完的な構成
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画一的な用途ではなく、重なり合う機能や居場所
そんな建築が、これからの都市や暮らしの中に、新しい豊かさをもたらしてくれるような気がしています。
建築は「全体」を先に描くことから、「関係性」を育てることへと変わりつつあるのかもしれません。