
境界と定着|建築をかたちづくるふたつの視点
ある場所に「居たい」と思わせる空間には、どんな力がはたらいているのでしょうか。
今回は、建築を考えるうえで大切にしている「境界」と「定着」というふたつの視点について書いてみます。
建築の一つの側面に「境界をつくる行為」があります。
柱や壁、屋根といった要素によって構成される境界。
それらが集まって、ひとつの建築物が生まれます。
けれど、建築はただの境界の集まりではありません。
そして大切なのは、その境界によってつくられた空間に、人が“定着”することです。
定着とは、時間を過ごしたくなる「何か」があること
人が定着する空間には、そこに居たいと思わせる“何か”があります。
それは、求心力のある物体だったり、愛着の湧く素材や手触りだったり。
どこか惹かれるような、静かに引き寄せられる力のようなものかもしれません。
境界と定着は、自然の中にもある
写真は、千葉の海岸で撮った一枚です。
ここに、建築的な「境界と定着」の原型があるように感じました。
切り立った岸壁の“境界”。
その足元には、ぽっかりと空いた凹みがあります。
洞窟のようなその空間は、不思議な安心感を持っていました。
実際にその中に座ってみると、包まれているような感覚があり、
風や視線から少し守られた、心が落ち着く小さな居場所になっていました。
写真右下に写る、ぽつんと佇む岩にも魅力があります。
ただそこにあるだけなのに、思わず近づきたくなるような、定着のきっかけになる存在です。
建築における「境界」と「定着」のバランス
人間は、自然や建築といった環境の中で、境界と定着を自然に見出す能力を持っているのだと思います。
居心地の良い空間には、程よい領域感をつくる境界と、そこにとどまりたくなる定着の魅力がバランスよく存在しています。
建築設計とは、そうした「ここで時間を過ごしたい」と感じられる**“何か”を空間の中につくること**。
それは目に見えない、空気や気配のようなものかもしれません。
境界をどう引くか、定着のきっかけをどう仕込むか。
そういった細やかな手がかりの積み重ねが、人の心に残る建築につながっていくのだと思います。