
20年ごとに現れる「動物的建築」という切り口
事務所内の雑談から、「建築の歴史には周期的に“動物的”な感性が現れているのではないか」という話題が生まれた。
近年は、生物のようなかたち、環境への適応性、自己変化する構造に触れる機会が増えている。
興味深く感じたので、その系譜を独自にたどってみたい。
【1920年頃|アインシュタイン塔(メンデルゾーン)】
今から100年前の1920年代を起点にしようと思う。
アインシュタイン塔は、鉄筋コンクリートを有機的に扱い、流線形のフォルムで重力や時間を空間に表現。
建築に「生命体の兆し」が宿った例といえる。
【1940年頃|ロンシャン礼拝堂の構想・ライトの有機的建築】
ル・コルビュジエは幾何学から離れ、直感的・内的な表現へと向かう。
同時代のフランク・ロイド・ライトも「機械的建築」に対するオルタナティブとして「有機性」を体現していた。
(ジョンソン・ワックス本社は1939年)
また、掩体壕やシェルターなど、防御のための「殻」のような建築群にも、動物的な本能が潜んでいる。
【1960年頃|メタボリズム(代謝する建築)】
中銀カプセルタワーや海上都市に代表される、細胞のような構成。
都市や建築を「代謝する生命体」と捉え、社会を支える原理とした。
新陳代謝という生命の仕組みが、建築思想の中心に据えられた時代。
【1980年頃|ポストモダニズム・脱構築主義・動的曲面】
モダニズムを越えようとする中で、水平垂直の秩序を崩す建築が現れる。
ゲーリーの自邸(1979)、ザハ・ハディドの「ザ・ピーク」(1983)などが象徴的だ。
折り畳まれる面や流線形が増え、建築が「動物のように動きはじめる」時代だった。
【2000年頃|パラメトリックデザインの隆盛】
デジタル技術の進展により、表皮と構造が融合し、連続する皮膚のような空間が生まれる。
ビルバオ・グッケンハイム美術館(1997、F.O.ゲーリー)から、ザハ・ハディドらのパラメトリック建築へ。
生成的で滑らかな、非線形の建築世界が広がった。
【2020年頃|環境適応・ポストAIの建築】
かたちから「ふるまい」へ重心が移りつつある。
AIの活用により、建築は環境と対話し、変化する存在となる。
菌糸のように広がるネットワーク型の空間、生物的で自律的な建築が模索されている。
マルチスピーシーズの考え方を取り入れた建築的実践も出てきている。
歴史の振幅
興味深いのは、動物的な建築が現れた後には、必ずその反対方向へ振れる傾向があることだ。
1920年代以降、約20年ごとに動物的な表現が浮上し、やがて機械的・理性的な志向へと揺り戻されてきた。
現在もまた、生物的建築の流れが強まっているが、その反動の兆しもすでに見えはじめている。
建築史は、動物的と機械的のあいだを振幅し続ける運動として読むことができる。