境界と定着
ある場所に立ったとき、理由はうまく説明できないけれど「ここに居たい」と感じることがあります。建築を考える中で、私はその感覚を生む要素として、「境界」と「定着」という二つの視点を大切にしています。
建築は、壁や屋根といった要素で内と外を分ける「境界」をつくる行為です。けれど、境界をつくるだけでは、空間はまだ完成していません。その境界によって生まれた場所に、人が自然と留まるかどうか——つまり「定着」が起こるかどうかが、空間の質を大きく左右します。人が定着する場所には、そこに居たくなるきっかけがあります。少し囲われて安心できる形、腰を下ろしたくなる段差、視線や風からわずかに守られる感覚。強く主張しなくても、身体が自然と反応してしまうような要素です。
この関係は、自然の中にも見られます。切り立った崖という明確な境界の足元にできた小さな凹みが、洞窟のような居場所になることがあります。あるいは、ただ佇んでいるだけの岩が、人を引き寄せることもあります。境界があり、その近くに定着のきっかけが生まれることで、場所は「居場所」へと変わっていきます。建築設計とは、境界をどうつくるかだけでなく、どこに、どんな定着のきっかけを仕込むかを考えること。そうした小さな工夫の積み重ねが、「ここで過ごしたい」と感じられる空間につながっていくのだと思います。
