AI時代の建築家


AIの進化によって、建築家の役割はこれから大きく変わっていきます。建築は長いあいだ、図面を描き、それを人の手で建てる技術でした。しかし今、設計から施工までのプロセスは急速にデジタル化しています。AIが設計を補助し、建設ロボットが施工を担い、建物はデータとして管理される。建築は今、「図面の時代」から「データの時代」へ移ろうとしています。ここでは、設計の現場で感じている実感を手がかりに、AI時代の建築家の役割について少し考えてみたいと思います。
(2026年3月時点での記録)

AI時代の建築技術

 

まずは変化を象徴する技術を、いくつか挙げてみます。

1 ジェネレーティブデザイン(AI設計)
AIが条件を読み取り、複数の設計案を自動生成する技術です。AIが多数のプランを提案します。

2 BIM(建築のデータ化)
建物を図面ではなく、3Dデータに材料やコストなどの情報を加えたモデルとして扱う設計手法です。

3 建設ロボット
溶接、塗装、測量などを行うロボットがすでに現場で使われ始めています。

4 建築3Dプリンター
コンクリートなどを積層して建物を「印刷」する技術です。小住宅の壁を数日で施工する事例も出てきています。

5 デジタルツイン
実際の建物をデジタル空間に再現する技術です。建物にまつわる事象(温熱環境、人の動き等)をシュミレーションできます。

こうした技術を見ると、建築は長いあいだ「図面を描き、それを人の手で建てる技術」でしたが、
これからは「データをつくり、それを出力する技術」へと変わっていくのかもしれません。

現場で感じるAIの変化

 

実際に設計の現場でも、AIによる変化はすでに始まっています。私自身も生成AIを使うことがありますが、建築の表現のアウトプットは急速に早く、そして高度になっていると感じています。例えば「こういう雰囲気の空間を関係者と共有したい」と思ったとき、生成AIを使えば様々なアイデアを即座にイメージとして可視化することができます。数年前までは、こうしたイメージを共有するために時間をかけてパースを描く必要がありました。それが今では、思考のスピードに近い形でビジュアルを作ることができるようになっています。

建築確認の仕組みも変化しています。現在では、設計データをもとに確認申請を行う仕組みが整い始めています。ほんの数十年前まで、確認申請は大量の図面や書類を人が一枚ずつ確認する作業でした。それを思うと、建築のプロセスは着実にデータ化されてきています。もし今後、建築確認が完全にデータベース化され、法規チェックが自動化されていけば、設計から確認申請までのプロセスはかなりの部分で自動化される可能性があります。

施工の分野でも変化は大きく、建築3Dプリンターはすでに実装段階に入りつつあります。こうした技術によって、これまでには難しかった形状の建築や、低コストでの建設が可能になる試みも進んでいます。さらに、人型ロボットの実用化が進めば、既存の建築制度の枠組みの中でも、人件費を抑えながら建築をつくることができる時代が来るかもしれません。

設計の初期段階でも、AIにアイデアを求めれば、数十の案を瞬時に提示してくれます。もちろん現状では、人間の提案に比べると、案の背景にある思想や文脈が薄く感じられることもあります。しかしこうした点も、技術の進化とともに少しずつ変わっていくのではないかと思います。

それでも残る建築家の役割


こうした流れを見ると、建物をつくる技術そのものは、将来AIでもできる時代が来ると思います。
では建築家は何をするのでしょうか。

私は、建築家の役割は「建てるというプロセスを豊かにする」ことにあるのではないかと思っています。哲学者ハイデガーは「建てるとは、本来、住むことである。」と述べています。そして住むこととは、生きることそのものでもあります。

人は本来、建てるという行為の中で生きてきました。住まいは単なる容器ではなく、人が世界と関わる場所でもあります。だから建築家の仕事は、単に建物を設計することではなく、人が建てることに関わる時間や経験を豊かにし、そこに意味を見出していくことなのだと思います。AIが進む時代だからこそ、設計の「プロセス」はますます重要になるのではないでしょうか。建築は、設計して終わるものではありません。実際に建て、手を動かし、空間が立ち上がっていくまでの長い過程を含んでいます。

建築をつくる時間

 

私自身、最近セルフビルドの取り組みをしています。
マンションの一室を仲間たちと一緒に作っているのですが、その時間はとても楽しいものです。壁を壊し、材料を運び、少しずつ空間が変わっていく。その過程に関わることで、建築が単なる完成物ではなく、人の経験の中で形づくられていくものだと感じます。

建築とは、完成した「物」ではなく、人が関わりながら生きる「時間」なのかもしれません。

最近、マルティン・ハイデガーの『技術とは何だろうか』という本を読みながら、こうしたことを考えていました。最先端のAI技術について考えながら、同時に半世紀以上前の哲学者の言葉を読み返しているのは、少し不思議な感覚でもあります。しかし技術がどれほど進歩したとしても、「建てること」と「住まうこと」の関係は、これからも変わらず問い続けられていくのだと思います。

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